実習会[5]報告

概要

開催日程

2011年2月20日(月)13:00〜2011年2月22日(水)17:00

懇親会

2011年2月20日(月)19:00〜21:30 @栄

開催場所

名古屋大学 理学館2階202-1室

主催
  • 月惑星探査育英会 実行委員会
共催
  • 国立天文台RISE月探査プロジェクト
  • 月科学研究会
後援
  • 惑星科学研究センター(CPS)/神戸北大G-COEプログラム
  • 日本惑星科学会
  • 宇宙航空研究開発機構
実習内容
  • 「かぐや」重力/地形データの取扱

    データの種類、ファイル構造、検索方法の説明、実習
    実習(1):GEODYNを用いた月周回機の軌道伝播・軌道決定体験
    実習(2):Generic Mapping ToolsとSHTOOLSを用いた地形/重力異常/断面図等の作成
  • 課題演習(選択制)

    1. 地殻厚モデル作成
    2. 局在化解析(アドミッタンス・相関)による表層密度推定
講師
  • 石原吉明(国立天文台)
  • 松本晃治(国立天文台)
世話人

諸田智克,古本宗充,渡邊誠一郎(名古屋大),木村淳(CPS/北大),石原吉明,松本晃治(国立天文台),小林直樹(ISAS/JAXA)

参加者
  • 参加者15名
    • 学部生3名
    • 修士課程1名
    • 博士課程1名
    • ポスドク4名
    • 教職員6名
プログラム
  • 20日 PM
    • 開催の挨拶(諸田)
    • 月の測地学の基礎(松本)
    • GMTを用いた地形図・断面図等の作成実習(石原)
  • 21日 AM
    • GEODYN IIを用いた軌道生成・軌道決定の実習 (松本)
  • 21日 PM
  • 22日 AM
  • 22日 PM 15:00〜17:30
    • 解析結果の発表会
      • 石山謙,押上祥子,山田竜平
      • 今枝隆之介,上本季更,桂木洋光
      • 小池みずほ,中島秀穂
講義風景

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成果レポート

実習会では3つの課題に対して3つのグループに分けて解析を行なってもらいました.最終日の午後にその成果の発表会を行いました.以下のレポートはその成果をまとめたものです.掲載許可が得られたものを順次公開しています.実習会参加者の努力が伝われば幸いです.どのレポートも秀作です.是非ご覧ください.

アンケート結果

現在8名の方からアンケートの提出がありました.以下の「(数字)」は人数を示します.

●本実習を知った経緯

  • メーリングリスト(5)
  • 指導教官,研究仲間からのメール(3)
  • 前回の実習会に参加(1)
  • 前回の実習会参加者に教えてもらった(1)

●参加理由

  • かぐや(重力)データ解析を経験したかった(3)
  • 月惑星研究,探査に興味があった(2)
  • 使用データの幅を広げるため(2)
  • 地殻厚を算出できるようになるため(1)
  • データ操作法の習得(1)
  • 前回の実習会が面白かったため(1)

●実習難度

  • 高い(7)
  • 理解できれば面白くなりそう(2)
  • 時間をかければさらにできるようになりそう(1)
  • 講義は分かりやすかった(1)

●講師・TAに求めるもの

  • 実演を増やしてほしい(2)
  • 丁寧に教えて頂いた
  • 大変良く準備をしていただき有難うございます
  • 事前準備のケアがほしい
  • TAとして何もできずにすみません
  • もう少し時間がほしい
  • ツールやプログラムの説明がもう少しあれば良かった
  • フローチャートなど書いていただけると助かる

●自由記述欄

  • 今回の実習内容のような知識の必要性を痛感した.
  • 今回使用したソフトは可能性を感じさせるものだった.
  • 使い慣れないツールや言語に悪戦苦闘し,内容の理解が追いつかなかった.しかし重力データ解析の手がかりが得られて大きな収穫であった.
  • 事前課題や簡単なコメントのついたソース等を頂けると実習開始時の認識の差がうまるのでは?
  • 事前準備に時間がとれなかったため実習中は作業に手一杯だった.今後も復習し理解を深めたい.
  • データ形式やヘッダ書式などの些細な点でのエラーで止まってしまいなかなか進めなかった.実際の解析現場でも同様と思われるがやや大変だった.
  • 初めて使用したツールが多く,勉強になることが多かった.
  • 重力データがどのように扱われるか感覚的に理解できたので有益であった.もう少し初心者にも分かりやすい配慮,世話人との連携があると良い.
  • 講師の方々有難うございました.

●今後取りあげて欲しいトピック

  • 天文衛星データ
  • かぐやTC
  • 地形,重力データ(第二弾)
  • 月震データ
  • はやぶさLIDAR

実習会に参加して

小池みずほ(東京大学理学部地球惑星物理学科 4年)

 私は月に興味があり,その起源・進化を知りたいと思っている.

 月は最も身近な天体でありながら,大部分が謎に包まれている.かぐやのかつてない程詳細な観測によって,月の謎解明に大きく近づくと注目されてきた.私も,かぐやから明らかになったこと・なると期待されることに興味がある.本実習会を知って,観測データがどのように解析されるのか知りたく,参加した.

 しかし,今回が初めての参加で,解析の知識・経験も乏しい.またテーマの軌道決定・重力異常等は,私には馴染みのないものだった.そのため当初は不安だったが,先生方の迅速なご対応とご配慮で,密度濃く,楽しく学ばせて頂いた.事前準備の環境設定も,初めてで戸惑ったが,分かりやすい資料に助けられ理解が深まった.

 当日の実習のうち,周回軌道決定は,天文台のGEODYN�というソフトを用いた.他の天体からの影響などを考慮しないと現実的な推定が出来ず,衛星が数日で落ちてしまうこともあり軌道決定の難しさを感じた.

 地形・重力データの解析にはSHTOOLSとGMTというソフトを用いた.GMTはコマンド入力で地形図等を作るもので,最初は難しかった,綺麗な月面図が描けると感動した.SHTOOLSは球面調和関数の計算ツールで,プログラムはfortran95で書かれている.私はf90の経験が多少あったが,長く複雑なプログラムは難しかった.重力異常から地殻厚を推定し,地殻密度や展開次数などが結果に与える影響について議論した.

 今回のテーマが難しかったこともあるが,自分の力不足で,予定の課題が達成できなく残念だった.特に,TAとして他の受講生のサポートが出来なかったことは反省すべき点であった.しかし,勉強して理解を深めれば,非常に面白いテーマであるとも感じた.

 本実習で実際の観測データの解析をさせて頂き,貴重な経験となった.また様々な分野の方と知り合い,他の方のご研究についても聞くことができ,とても良い刺激を受けた.私は大学院での研究テーマを具体的に考えている途中であり,ここで学んだことが今後の自身の研究に良い影響を与えればと思っている.

 最後に,この場を借りて本実習会でお世話になった皆様に感謝致します.有難うございました.

石山 謙(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻 M1)

 今年の実習会は名古屋大学で開催され,解析内容は,かぐや衛星で取得された地形データと重力場データを用いた月地殻厚の推定であった.今年の実習会も3日間の集中実習であり,今年の講師は,石原先生と松本先生であった.初日は,国立天文台のホームページ上で公開されてある月地形データなどを使った作図の方法を学んだ.作図には,Generic Mapping Tools(GMT)というツールを使ったのだが,このツールがくせものであった.なぜならば,GMTは様々なコマンドがあり,それぞれの使用方法を知る必要があったためだ.コマンドの使い方などは石原先生に教えて頂いたホームページや資料を参考にしたが,結局は石原先生の解答を見たり,松本先生から色々と教えてもらったりしながらGMTを学んだ.実習会の初日は,GMTの実習課題(3つ)をほぼ終える予定であったが,私は2つの課題を終えるので精一杯であった.

 2日目,午前中はGEODYN�を用いた衛星軌道の決定を学んだ.GEODYN�は,松本先生から扱い方を教えて頂いた.「衛星の軌道決定」という実習だけでも一つの実習会になりそうだが,それを午前中に終えるハードスケジュールであった.私はまだ理解が不十分であったが,理解できれば絶対に面白い講義だと感じた.午後はGMT実習の続きである.一応,3つの課題は何とか終えることに成功した.

 3日目,午前から地殻厚の推定をSHTOOLSというツールを用いて解析を進めた.解析するにあたり,松本先生,同じ班になって頂いた国立天文台の山田竜平さん,名古屋大学の押上祥子さんには大変お世話になった.協力していただいたおかげで月地殻厚の解析ができた.それを作図し終えたとき,感無量であった.奇麗な図を自分で描けただけでも,この実習会に参加した意義をやっと見いだせた気がした.今回の実習は非常にハードだったが,得られるものも大きく感じた実習会であった.この場をかりて,講師ならびに世話人の先生に深く感謝致します.ありがとうございました.

今枝隆之介(東京工業大学理学部地球惑星科学科 4年)

 月の表層地形から内部構造に至る固体惑星科学分野に私は大変興味を抱いている. 月には人類が唯一足を踏み入れた過去があるにも関わらず多くの事が未だ解明されていない. これが幼少から私を月の虜にした所以かもしれない. 大学生の今, 幸いにもこの興味を研究にぶつける絶好の機会に恵まれている.

 実習日程がまさに卒論終了直後であり, 来年度は大学院で月の純粋科学を学ぼうと考えていた私は, 迷う事無く実習への参加を決めた. 一方データ解析の経験と言っても, 一昨年に国立天文台で銀河群の可視画像解析を行ったことがある程度で素人同然, TAを志願したものの不安は大きかった.

 今回の実習では, 月周回衛星かぐや搭載の観測機器によって得られた月地形データ・月重力場データのマッピング及び地殻厚の推定, 軌道解析ソフトによる衛星軌道の算出という二つのテーマを学んだ.

 前者はレーザ高度計Laser Altimeter(LALT)によって取得された月面の地形データをマッピングツールGeneric Mapping Tools (GMT)で作図し, 球面調和展開係数の解析ツールSHTOOLSを用いて仮定した月表層の密度構造に対するモホ面形状から地殻厚を推定するというもので, 測地学の基礎分野を学んだ. 後者はNASAが開発した衛星軌道解析ソフトGEODYNEII を用いて, 与えた初期・拘束条件に対する衛星の挙動を解析するというものであった.

 GMTを使いこなすには大変な苦労を伴ったが, 初めて月面の全球マッピングに成功した時は大変感激したものである.実習時には, 実践している事とその内容の本質の理解の間にしばしばタイムラグが生まれ, 実習当時は焦りを覚えながら進めることもあった. 実習後の復習で初めて意味が分かったものも多くTAとしての事前準備時の予習不足は多いに反省された点である. 一方こういった復習過程を含めた学習行為により理解を深められた点で実習に参加した意義は大変大きかったと思う. 今回学んだスキルを無駄にしないために, 今後何らかの形で自身の研究へ応用したいと考えている.

 最後に世話人の皆様並びに講師の先生方にはこの場をお借りして感謝の意を示させて頂きたいと思います. ありがとうございました. そして今後ともよろしくお願い致します.

Last modified:2012/04/17 10:02:32
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