日時: 2008 年 6 月 30 日(月) 15:00 - 16:30
場所:

神戸大学 自然科学総合研究棟 3 号館 508号室,
(テレビ会議システムで北大, 東大, 宇宙研, 九大に接続)

講演者: 石丸 亮 (東京大学) 
タイトル: 天体衝突が原始タイタン大気に及ぼす化学的影響
- タイタンN2大気の衝突起源 -
abstract: 土星系最大の衛星タイタンは、氷衛星で唯一厚い N2 大気を持つ特異な天体である。なぜこのような N2 大気が形成されたのかを知ること は、タイタン大気の起源を解明するだけでなく、惑星大気の形成モデ ルに対して制約を与える意味でも惑星科学的に重要である。しかしな がら、その答えを得るには証拠に乏しく、これまでよくわかっていな かった。この謎を解く手掛かりとして、タイタンの原始大気が NH3 に 富む大気であったことを示唆するデータが近年のホイヘンス探査から 得られている(Niemann et al., 2005)。もしそうならば、原始 NH3 大気から現在の N2 大気へとどのように進化したのであろうか? NH3 大気から N2 大気が形成される有望なモデルとして衝突衝撃波加熱モ デルが提唱されている(Jones and Lewis, 1987; McKay et al., 1988)。これは、天体衝突により引き起こされる衝撃波加熱によって 大気中の NH3 を熱分解して N2 を生成するモデルである。高温では NH3 よりも N2 の方が熱力学的に安定であるので、加熱された大気で 起こる化学反応(NH3→N2)がどれだけ進行するかが N2 の生成量を 決める。先行研究はタイタンの原始大気として従来から考えられてい た CH4-NH3 大気への衝突を考え、その衝突により生じる化学反応に よってただちに平衡組成が生成されることを仮定している。そのよう な CH4-NH3 大気の高温での平衡組成に含まれる窒素の大部分は N2 で あるので、大量の N2 が生成される結果になっている。しかしながら、 これらの先行研究は衝突によって引き起こされる熱力学状態や化学反 応を再現しているとは必ずしも言えないことが問題点として挙げられ る。なぜなら、彼らが考えている CH4-NH3 大気の比熱が大きいために、 実際には衝撃波加熱が効かないことが予想されるからである。CH4 の 振動モードが多いことが比熱を大きくする原因である。もし衝撃波加 熱が効かない場合には、NH3 から N2 を生成する反応が緩慢になり、 先行研究の N2 生成モデルが破綻してしまう可能性がある。このよう な緩慢な反応を適切に扱うためには、化学反応の反応速度(キネティ クス)を考慮して議論する必要がある。そこで、本研究ではキネティ クスを扱うことができる衝突衝撃波加熱モデルを新たに開発し、その モデルを使って衝突による N2 生成量を再評価した。今回の発表では、 その結果を使ってタイタン N2 大気が衝突によって形成されうるのか? 形成されるのならばどのような条件で形成されるのか?について主に 議論する。